鉄の匂いから、肌の匂いへ───
急な潮流でも有名な、音戸の瀬戸の渡し。
瀬戸内では多く残る渡船が、瀬戸内と外海の交わるここ呉にも、残っていた。
音戸の瀬戸は天然のものではなく、約800年前に、人の手によって切り開かれた水道だ。
今も現役で残る渡しがいずれもそうであるように、生き残り、引き継がれることが当然のこととして、そこにただ黙々と存在しているように感じる。
そういえば、船着き場では、地元の人ひとりといっしょになった。
見知らぬ人との間に流れる空気も、都市のそれとは違い、肌に暖かい。
切符売りのおばちゃんは、そんなゆったりとした空気の中、長生きした猫のように、とろとろとまどろんでいるようにも見えた。
その正面に座っていた私もつられて居眠りしそうになった時、渡ってくる可愛らしいエンジン音に起こされた。
音戸の渡し(音戸大橋付近)/緯度34'11'29'84 経度132'32'24'66
|