EXIT INDEX 旅の終わりに BACK EXIT
LIN001

風吹き荒ぶバス停にて
呉には、その日の朝まで訪れるつもりなどみじんもなく、ふと思い付いて出かけたのでした。

瀬戸内ならではの、あの明るい日射しと陽気さは、当然ここにもあったけれど、しかしその活気の裏に、尾道などとは異なる「重さ」をも感じさせる町でした。

その理由のひとつは、「軍」の匂いが濃く漂っていることでしょう。そして、その過去とも言える歴史上の建築物も。

それはさておいても、このまちは観光というよりも、「町を覗く」という気分で散咲するのにふさわしい雰囲気を持っていました。
確かにガイドブックには、最近できた洒落た店なども載っていますが、よくある都会のミニチュア版を見て回るのは、私はあまり好きではありません。
お目当ての店を探すのでもなく、スポットをしらみつぶしにするのでもなく、ただただ、ぶらぶらするのにぴったりな町だと思いました。


整えられたメインストリート、れんが通り、公園、少し角を曲れば雑多な昔ながらの庶民の町並み、また海では漁師たちが汗を流して働き、島々の風景は、進むほどに複雑に入り組む‥‥夕暮れには巨大な造船所の影におののき、ちょっとした山に上れば、海霞に濡れたすべてが一望できる‥‥

異邦人は異邦人として、下調べなくても歩きまわれる不思議な町。
そう、私にとってまさに夢の中にぽっかり現れたような箱庭の町‥‥呉。

‥‥風景の綾織のように、イメージがいくつも織り重ねられ、やがて呉の宵はやってきました。

ただ、私にとっては「架空の箱庭」でも、そこには積み重ねられた人々の営みがあり、時が流れていることは事実です。
こんどは、それそのものにふれる旅をしたいと思います。
LIN001
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