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【ナンバンギセル】(ハマウツボ科)

ナンバンギセルには葉がない。
寄生植物である。
ススキなどの根から養分を貰い、自分では光合成を一切やらない。
ずるいではないか、という人もいるが、人間の倫理観を植物に押し付けても迷惑だろう。
自然界にはそういうこともあるのだ。
だいいち人間だって、植物に対してそんなに威張れた存在ではない。

生物界を大別すると、生産者、消費者、分解者になるという。
大まかにいえば、それぞれは、植物、動物、菌類(きのこ)とされる。
植物が太陽と土から作り出した養分を動物が食べ、動植物の屍骸や排泄物は菌類が分解して土に戻す、というサイクルである。
人間を含めて、動物は植物に寄生している、ともいえるわけだ。
もちろん例外はたくさんあって、食虫植物のように昆虫を捕らえる植物だって存在する。
ナンバンギセルも、そうした模式図には入りきれない例外の一つ、ということになろうか。

ナンバンギセルは9月に咲く。
そのころに観察会をやると、ススキの根元を熱心に見て歩く人がいる。
ナンバンギセルがお目当てなのだ。
「あったよ〜」声があがると、皆、わらわらと集まってくる。
「わ〜ほんとだ」「始めて見ました」「立派だね〜」・・・いろいろな声が飛び交う。

ナンバンギセルを栽培している人の話を聞いたことがある。
咲いているものを移植しても根付くわけがないので、タネから育てたという。
寄主(寄生される側)には、ススキではなく、もっと背の低いイネ科の草を使う。これは、鉢とのバランスを考えてのことらしい。
ミョウガでも出るよ、と教えてくれた人もいた。
ミョウガの根元にタネをぱらぱら蒔くだけでよいのだそうだ。

このスケッチは、ありがた山の奥にあったものだ。
ススキの群落があって、そこから少し離れた裸地に生えていた。足場は申し分なかった。
ただ、こういうのっぺりした緩やかな曲線は、意外と難しい。
見ないで描くわけにはいかないし、対象を見ているとペンがあらぬ方向へ行きそうになる。
途中でペンを止めると、そこに小さなダンゴができる。
息も止めていなければならないのだ。

それと、彩色には手間取った。
紫色の花弁は、単色ではない。
ガラスの粉をまぶしたような、きらきらした点が一面にあって、1粒づつ色と濃度が違っているのだ。
そこまでは表現できないと思いつつも、点描の要領で筆先で点点をつけていく手法をとった。
面相筆の先端で、ちょんちょんとコンマ何ミリかの点を打っていく。
それを、すこしずつ色を変えて、何度も何度も重ねて仕上げた。
わずかな面積が、とてつもなく広く感じた。

右側の株は根元が土から露出している。
根の先端がどうなっているのか、掘って確かめたい誘惑にかられた。
だが、被写体の植物にダメージを与えないことを、これまでのスケッチでは守ってきている。
もし掘るのだったら、根まで含めてスケッチしなければ、ナンバンギセルも浮かばれまい。
結局、そのままでその場を離れた。ちょっぴり未練ではあったが。