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【キブシ】(キブシ科)

キブシは早春の林を飾る花だ。
もっと早い花としてはハンノキがあるが、風媒花であるため地味すぎて、花という感じがしない。
キブシが咲き出すと、雑木林は急速に「春バージョン」へと変わっていく。
木々の冬芽がほころび、やがてコブシの白い花が遠くからでも目立つようになる。
待ちに待った季節がやってきたのだ。

キブシの花穂は独特の形で、似たものは思いつかない。
花屋で「黄藤」という名前で呼んだりするそうであるが、当て字であり、もとよりフジの仲間ではない。
キブシ科は1科1属、世界中でも6種ほどしかない、孤独な科なのだ。
キブシは「木五倍子」と書き、五倍子を「フシ」と読ませる。
五倍子とは、ヌルデの虫こぶから取れるタンニンのことで、江戸時代、鉄漿(おはぐろ)に使ったのだという。
キブシの果実を五倍子の代用として用いたことから、木五倍子といわれるようになったらしい。

観察会で、キブシはちょっとした話題を提供してくれる。
それは、キブシの花の雌雄を当てるゲーム?を行うのである。
キブシは雌雄が別株だ。
したがって、咲いている花は雄花か雌花のどちらかしかない。
手に触れたり、花の中を覗いたりせずに、どちらなのか、推定する。

コツがわかれば、比較的容易に雌雄を判別することができる。
雌花は穂が短く、雄花は長い。
雌花は緑がかった黄色、雄花は緑が入らない。
こういう遊びには、結構みな乗ってくる。
因みに、このスケッチは雄花だ。
花の中に、黄色い葯(花粉袋)が入っているのに気づかれただろうか。

先日、稲城野草散策の会で京王相模原線・若葉台駅から稲城駅まで歩いた。
前日のみぞれ交じりの雨とは打って変わって、抜けるような晴天。
約60名という大人数の観察会となった。
車道を避けて、農道、雑木林を縫うように歩く。
歩き出すとすぐに、列は数十mに伸びる。
私の声は大きく、よく通るといわれるがが、それでも後ろの人には聞こえないほどだった。

このコースにもキブシの花がたくさん咲いていた。
観察会参加者は、自然の楽しみ方をよく知っていて、満開のソメイヨシノよりもキブシなどの野生の花に興味を示す。
キブシの雌雄を決する?遊びで楽しんだことはいうまでもない。

この日、スミレが11種見られた。
日本植物友の会副会長の山田隆彦さんは、スミレにたいへん詳しい方である。
ちょっと紛らわしいものは、今回参加されていた山田さんに確認していただいた。
こういう方が参加されると、当会もステータスが上がってきたかという感慨が湧く。
ありがたいことだ。

春。爛漫の春。百花繚乱の春。
今年も思いっきり楽しみたいものである。