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【ツルマメ】(マメ科)

スケッチに出かけてみたものの、手ごろな被写体に出会えずに、さまよい歩くことがある。

秋、川崎市黒川でのことであった。
どういうわけか、これぞと思える花がない。
獲物に逃げられたハンターの心境とでもいおうか。
秋の日は短い。
遅くても午後2時にはスケッチを開始しないと、日没ドローゲーム?になる。
もう一つ向こうの丘はどうだろう。いや、あそこはここよりもなさそうな気がする。
などと迷っているうちに、どんどん時間が過ぎていく。あせってきた。

お、何か咲いている。
近寄ってみれば、ユウガギクだ。これはすでにスケッチ済だ。
一度描いた花は、よほどのことがない限り、再スケッチはしない。
いずれ、時間があったら、気に入ったものを何度でも描いてみたい気持ちはあるが、いまは種類を増やすことに専念したい。
多摩丘陵の花で、描いてないものはまだたくさんある。
たとえば、スケッチによる図鑑を作ろうと思っても、現状では種類が少なすぎて成り立たないのだ。

いっそ、たくさんあるイネ科でも描こうか。
イネ科はスケッチしたことがない。
いつかは描くことになるだろうが、まだその時期ではないと、ずっと思ってきた。
イネ科の場合は肉眼で見た形だけではだめで、拡大図が必要だ。
そうしないと、図鑑に書いてあるような特徴を捉えられない。
顕微鏡が必要になる。
いま、中途半端なことをやっても意味がない。やめておこう。

あきらめて帰ろうとしたときに、農道脇のフェンスに咲いているツルマメを見つけた。
花と実の両方がある。よし、これだ。
ようやく飯にありつける・・・というわけではないが、気持ち的にはそれに近かった。
日没までの時間はあまりないが、手抜きにならない程度に構図を簡略化すればなんとかなるだろう。
それでも、花だけでなく、実も入れるようにした。
そんな経緯があってのスケッチだった。

ツルマメもマメだから、莢の中に豆が入っている。
熟した豆には黒い斑点があって、ウズラの卵にそっくりである。
初心の頃、ツルマメとヤブマメの区別がよくわからず、莢を割って確認したことがあった。
いまは花でも葉でも実(莢)でも簡単にわかる。
ヤブマメの実には毛がたくさん生えていて、枝豆を小形にしたような色・形だ。
似ているのも道理、ヤブマメは大豆の原種なのだそうである。

似ているものを瞬間的に見分けたときには、一種の爽快感がある。
ちょっと得意な気持ちになったりもする。
それでも、最近はこれでいいのだろうかという疑問を禁じえない。
わからなかったころには、見分け方に苦労した分だけ、感動や喜びがあった。
それが自分の中からどんどん失われているような気がするのだ。

初心忘れるべからず。いつも新鮮な気持ちを持ちつづけたいものである。