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【センブリ】(リンドウ科)

ありがた山の奥にセンブリの群生地がある。
センブリは多摩丘陵では稀な存在なので、詳細な場所は書けないが、かなりの数がまとまって生えている。

このシリーズでもたびたび登場しているHさんと一緒に、ありがた山を歩いているときだった。
見慣れない草がたくさん群生していた。
まだ伸びだしたばかりで、2〜4cmくらいしかない。
当然花は咲いていない。
なんだろうと二人であれこれと考えた。
細長い葉が対生している。
かなり濃い緑色の葉だ。

いままで見たものや図鑑などから得た知識を総動員した。
対生というと、ナデシコ科、ユキノシタ科、アカネ科、スイカズラ科、などが思い浮かぶ。
しかし、それらには該当しそうもない。
議論しながら、消去法でだんだんと絞り込んでいった。
突如Hさんがリンドウ科と言い出した。

まさかと思った。リンドウ科だとしたら、センブリだ。
センブリがこんなにたくさんあるなんて、にわかには信じ難かった。
センブリを始めて見たのは、八王子市だったと思う。
日本植物友の会の観察会で教えていただいた。
道路脇で数株、ひっそりと生えていただけだった。
多摩丘陵ではほとんど見られなくなった、という説明があったのを思い出していた。

センブリは千回振り出しても(煎じても)苦いことから名前が付けられている薬草だ。
この草がセンブリならば、当然苦いはずである。
二人で葉を噛んでみた。
Hさんがどう感じたか、顔つきを見ればわかる。
私も同じ顔をしていたに違いない。
強烈な苦さがあった。

秋も深まった頃、Hさんと花を確認に出かけた。
間違いなくセンブリだった。
これだけの株、おそらく数百本は生えている。
すごい。すごいものを見つけてしまった。

センブリがあることは、絶対に内緒にしておこうと思った。
しかし、喜びは隠しておけないものだ。
数人に教えた。得意満面だったのではないだろうか。
あっという間に仲間内に広まってしまった。
もう、破れかぶれというか、観察会で大勢の人を案内したこともあった。

最近、センブリを見に行っても、なぜか数が少なくなっている。
あるとき、薬草にするのだといって、採りまくっている人を見かけた。
やっぱりこうなってしまう。教えなければよかったと思っても後の祭りである。
後悔の味は、センブリよりも苦かった。