ニオイタチツボスミレ(スミレ科)    0412m.gif b-10

【ニオイタチツボスミレ】(スミレ科)

身もフタもない言い方をすれば、花は植物の生殖器官である。
腹這いになったまま、花と向き合って、微に入り細にわたって観察しながらスケッチするという行為は、アブナイことをしているような気がしないでもない。
人間だったら・・・張り倒されている(^_^;)
被写体=この場合はスミレ=とは心を通わせ、すべてを許しあった上で描いているつもりだが、はて、どうであろうか。
傍から見たら、結構怪しい行動なのだろうな、と思う。

ニオイタチツボスミレは、タチツボスミレとよく似ている。
初心者だったころは、区別がつかなくて迷いに迷った。
花に香りがある、という話を聞き、地面に這いつくばってクンクンやったこともある。
私は鼻が悪いのか、香りで区別できたことはない。

タチツボスミレは花の色が薄く、地味な印象を受けるのに対し、ニオイタチツボスミレは色も鮮やかで、花の中心部は白い。オシャレなツートンカラーだ。
それ以外にもいくつかある特徴を、瞬間的に捉えて判断するには、やはり年季がかかる。
観察会などで、皆にパっと説明できるようになったのは、比較的最近である。

このスケッチは「スミレの丘(アカネスミレの項参照)」で描いた。
いつものように一畳サイズのシートを敷き、腹這いになってスミレと対峙する。
近眼鏡を外し、細かいところはルーペで確認しながらの作業だ。
神経を集中させ、形を見極めてはペンを滑らせる。
眼と指先だけが動くのみだ。
線は消しゴムでは消せないので、真剣勝負である。

とはいっても、集中力はそんなに続かない。
20分に一度くらいはペンを置いて一服したり近くを歩き回ったりして気分転換を図る。
無理してスケッチをしていると、ミスタッチを起こしやすい。
そろそろ一服タイムかな、と思ったとき、後ろで声がした。
「人が倒れてる!!」

起き上がって見ると、20mほど先に誰かいる。
眼鏡をかけてよく見れば、なんと、植物観察仲間のYさんであった。
行き倒れかと思ったそうだ。
そういえば、スケッチには一人で出かけるので、私のスケッチ姿を知っている人は少ないのだ。
お互い、大笑いになった。
この話は尾ひれをつけて観察仲間に広がり、「Taさんの行き倒れ画法」という伝説?ができてしまった。

あるとき、裏高尾(八王子市)でスミレの仲間、タカオスミレをスケッチしていた。
ここは絶好の観察ポイントである。
道路端ではあったが、スミレの場合は腹這いにならざるを得ない。
と、いきなり名前を呼ばれた。
見ると、知っている観察仲間がゾロゾロいる。
某観察会の総会があって、集まっているとのこと。
しばらくの間、「Taさんが裏高尾で行き倒れになっていた」という噂が飛び交ったのであった。