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北海道をくまなくとはいかないものの、函館から知床、宗谷岬まで、道南、道東、道北と旅をした。その中には3週間ものキャンプ旅をしたこともある。それでも北海道は広く、「隅々まで見た」とはとてもいえない。だから北海道を語るには、地元で毎日フィールドに接している方達には到底かなわない
僕がRISEという北海道のアウトドア雑誌と出会ったのは、神田神保町の書泉ブックマートだった。レジの横に平積みされたその雑誌をペラペラとめくると、鳥肌が立ってくる自分に気づいた。十勝川を特集したRISE Vo.3は東京の大手出版社が発行しているアウトドア雑誌とは一線を画していた。十勝川の源流から河口までを詳細にルポしている。また十勝川だけでなく、釧路湿原を空撮したカットや北海道に生息する動物、生物、植物も丁寧、かつ、素晴らしい写真で紹介していた。そこには人と自然との関係、つまりいわゆる商業ベースを取り除いた、真のアウトドアライフについて、熱く語られていた。企画を決め、丹念に取材し、1年もの歳月をかけ、その雑誌は作られていたのだ。年に1度の発刊、しかも地域限定発売。書泉ブックマートに置いてあったのは、今から思えば奇跡に近かった
その雑誌を創刊した編集長が長野晃さんだった
僕はRISEを創刊した、この編集長に会いたくて、さっそく電話をしてみた。しかし長野さんは、常にロケに出かけてなかなかつかまらない。やっとコンタクトがとれたのは、季節も冬、札幌雪祭り間近であった。僕は飛行機で雪祭りの札幌に飛んだ。RISEの編集室は財研というアパマン情報誌を出版している会社の小さな一室にあった。なにしろ編集といってもスタッフは長野さん一人、だから本当に小さな小さな編集室だった
長野さんは、僕よりもずっと若く、ハンサムで、タフな人だった
彼はRISEで使用する写真の多くを撮影していた。つまり自ら現地を取材し、編集をしていた。もちろん彼の写真だけでなく、彼のコンセプトに賛同した、北海道のネイチャーフォトグラファー達の作品もRISEの重要な位置を占めている。定価1800円という高価な雑誌だったが、広告も殆ど無く、A4よりも大きいその本は、十分価格に見合う内容だ
短い訪問時間だったが、僕は、僕自身が抱いていた、自然を対象としたコンテンツ論をおそらく機関銃のように、長野さんにぶつけていたように思う。彼もまた、彼自身のスタンスを明確に述べられた。会話の内容を書き出すと、長くなりすぎるので、割愛するが、少なくとも長野さんとの出会いが、その後の僕のデジタルコンテンツ作りに大きな影響を与えたことは間違い無い
訪問後、数年が経過し、僕はアウトドアCD-ROMコンテンツを製作した。当時500枚も売れれば成功といわれていたCD-ROMだが、そのCD-ROMは5000枚も売れた。ゲームが大半の中でアウトドアを扱った渋いコンテンツなのに。この報告を真っ先に長野さんに伝えたく、RISEに電話をかけた。しかし、その電話に出たのは長野さんではなく、森山さんという新人の方だった。彼から告げられた内容を聞いて、思わず受話器を落としそうになった。長野さんは亡くなっていたのだ。それも僕が電話をする少し前に
長野さんは森山さんと一緒にオンネトーの取材に愛車パジェロで出かけていた。その日の取材を終え、森山さんはテントで、長野さんは車で寝た。翌朝、森山さんが長野さんを起こしに車をたたくと返事が無い。おかしいと思いドアを開けると、長野さんは既に亡くなったいた。急性心不全だったようだ
僕はショックだった。彼とは、お互い、今までにないアウトドアコンテンツを作っていこうと誓い合っていたからだ。僕は、彼との約束のデジタルコンテンツを作り上げた報告をするために電話をかけた。しかし、その時、彼はもうこの世にいなかったのだ。僕は長野さんの思いを無駄にはしないと自分自身に誓った。その後、森山さんとは吉祥寺で出会うことができた。彼からは、RISEを引き継ぎ、編集長となったことを告げられた。僕が提案した、北海道のキャンピングガイドを長野さんは約束通り作り上げた。その北海道キャンピングガイドは、今年も森山さんが発行してくれるはずだ
写真は支笏湖から洞爺湖に向かう途中にある美笛の滝だ
あまり名を知られていない滝だが、北海道の滝の中でも、かなり美しい滝に入ると思う。滝までは車を停めて、渓流沿いを歩くこと15分くらいだろうか。辿り着くまで、気持ちよい森林浴を楽しめる
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