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若い頃は忍野八海は単なる観光地だろう..ぐらいにしか思っていなかったので、食指はあまり動かなかった。しかしある写真との出会いで、その思いは逆転した
田口哲さんの写真で世界初のCD-ROM魚図鑑「日本の淡水魚」を作りはじめたのは、1990年代のはじまり、彼のポジフィルムを毎日ビデオキャプチャーしていた。ターゲット機種はFM-TOWNS、CD-ROM標準搭載のパソコンは世界で唯一の存在だった。まだアドビのフォトショップなど世に登場していない、TIFフォーマットすらプログラマーの多くは知らず、ましてJPEGなどは一部の物好きしか知らなかった。CD-ROMを焼くライターも600万円で安かった時代だ。当時はフィルムをプリントしてフラットベッドスキャナーで取り込むのが主流だったが、画質には到底満足できなかった。しかもフィルムスキャナーは、まともなものは1000万円ほどしたが、それすらも美しいとは思わなかった。だからいろいろ試行錯誤した結果、ソニーの業務用3CCDビデオカメラにフジノンのマクロレンズを取り付け、FM-TOWNSでビデオキャプチャーするのがベストだと確信した。この方式だと72dpiの画質しか得られないが、FM-TOWNSで表示する画像の大きさは320*240ピクセルしかできなかったので、問題なかったのだ。それよりもフィルムごとにリアルタイムにトリミングや露出、ピント、カラーバランスの調整ができることのほうが、はるかにありがたかった。つまり高品質な30万画素デジカメを作りあげての作業をしていたのだ。しかもレタッチは1ピクセルごと手作業でおこなった。大変な時間を要したが、写真の出来には満足した
淡水魚のクリアな写真の撮影は海水魚と比較すると、数段難しい。理由は水の透明度がよくないからだ。イワナなヤマメなどの渓流魚ですら、クリアな写真を撮るのは大変だ。道志川や秋川で撮影してみると分かるだろう。だからコイやフナのクリアな写真は殆ど絶望的なのだが、なぜか、不思議なことに、ビデオでキャプチャーしたコイは、メチャクチャクリア、水の透明度が素晴らしく良いのだ。こんなに透明度の良い場所でコイが棲みついているとは信じられなかった。後日、田口さんに撮影地を尋ねると、忍野八海で撮影したものだと返事が返ってきた。特別の許可をもらい撮影したのだそうだ。しかも渓流魚とコイが一緒に泳いでいるとのこと。こりゃ一度は見に行かねば
写真は、はんのき資料館から見た富士山だ。敷地内の底抜池(そこぬけいけ)や湧池(わくいけ)、お釜池(おかまいけ)の透明度は忍野八海の湧水の中でも美しく、ニジマスやイワナと一緒にコイが泳ぐ姿を見ることが出来る。しかし魚を丹念に眺める人達は案外少ない。特にアマチュアカメラマンは皆無といってもよい。彼らは風景写真雑誌に掲載された撮影ポイントに、異常なほど群れている。雑魚ほど可愛い自分には好都合だ
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