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山形蔵王山の麓は山形市だ。県庁から蔵王はすぐ手の届くところにある。市内を流れる馬見ヶ先川の水は清らかで、真夏には子ども達が岩の上から川に飛び込み、水と戯れている。東京の感覚でいえば、隅田川で水遊びをするようなものだ。なんともうらやましい。水の良い所は料理も旨いの例にもれず、山形市内では美味しいラーメン、ケーキ、パン、蕎麦を味わえる。特に山の手にある新興住宅地、東青田地区には魅力的な店が集まっている
山形市内からは1時間もかからず蔵王温泉に出られる。蔵王温泉はスキー場の町だ。夕暮れ、鳥兜山から中央高原に辿り着くと、そこにも旅宿があり、山に辿り着いたという風情は感じられず少々淋しかった。しかし鳥兜山展望台からの眺めは素晴らしい。月山から飯豊連峰まで一望でき、眼下には明りの灯り始めた蔵王温泉が見える
温泉に入り、町中を散歩する。蔵王温泉は今時のお洒落なスキー場ではない。昔ながらの町並みだが、いわゆるバーやスナックは少なく、健全な温泉町といってよいだろう
細い路地へ曲がると「つきたてのもち」という看板が目に入った。「もち食堂 六郎兵衛」が店名のようだ。店内に入ると、おばちゃんが一人カウンターの中に居た。どうやら客は僕一人だけのようだ。壁のメニューには「おろし餅500円、納豆餅500円、おしるこ500円、ずんだ餅600円」など餅のメニューがずらりと並んでいるが、1品づつ頼むよりも、好きなものを2品、3品選べるお得なセットを選択するのが主流のようだ。ちなみにどれでも2品で800円だ。僕は「納豆」と「ずんだ」を頼んだ。「ずんだ餅」は東北の名物料理で、茹でた枝豆を打ち、すりつぶし、砂糖と塩を加え、つきたての餅に練りこんだものだ。よもぎ餅の深い緑とは異なり、爽やかな緑色がなんともキレイで涼しげだ。それにしても、この店の餅は実に旨い。よくねばる餅は適度の腰もあり、またもち米が良質だ。久々に餅の旨さを体感した。手づくりの良さが生きている。客は僕一人だけだったので、おばちゃんに食べた感想を述べると、おばちゃんは、自分が餅をついていること。家族は農家で、もち米も自家栽培であること。農業だけでは、なかなか収入は上がらないこと。この店以外に冬場はペンションも経営していることなどを話してくれた。農業は主に息子さんがやっているらしい。しかし、この店の餅をつくのだけは絶対に自分がやるのだと。この餅の味は自分しか出せないというのだ。餅づくりはおばちゃんにとっての生甲斐なのだろう。「つきたてのもち」という看板に全てが言い尽くされている
農家の方達は一生懸命に野菜を作っている。しかし、野菜の価格は流通業者によって支配されている。どんなに良質な野菜を作っても、農協から流通業者に渡るときには、他の野菜とその価値は同一にされてしまっているのが現実だ。だからこのおばちゃんの家族のように、自慢の野菜を2次加工、3次加工して商品化すれば利益率はぐんと上げることが出来る。またお客からの評価も直接得られる。今後、まじめな農家が生き残るには、従来の流通に頼らず、独自の商品企画と販売網を持ったほうが良いに違いない..これからの農家にはマーケティングが必須だ。店を出て、歩きながらそう思った
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