「山旅倶楽部」で広がるアウトドアライフ
No.197 2003.7.14
秋田県 十文字

十文字ラーメン

十文字ラーメン
[Exif位置情報 あり]

早朝の道の駅「東由利」を後にして湯沢に向かう。ほどなく十文字町に入った。十文字と聞くと、反射的に美信とつぶやいてしまう。十文字美信..僕の好きな写真家だ

その時、バックミラーを見ると..なんと鳥海山が見えている

2泊3日滞在した鳥海山では山頂は全く見えなかったのに..すぐに田んぼ道に入り込み、車を停めて鳥海山を眺めた。山頂に雲は無い。現在6時半。あと1、2時間は持つだろうか。地図を広げてみる。ここから鳥海山に戻るとすると湯沢、雄勝を経由してのコースが最短のようだ。とりあえず道の駅「おがち」まで行ってみよう。到着したのは7時半だった。まだ天候はくずれていない。決心して鳥海山竜ヶ原湿原に向かったのだが、県道から猿倉温泉に入る頃には、また鳥海山の頂上は雲に包まれそうになってきている。なんてこった。奥山牧場に到着したのは8時半。かろうじて山頂の見えるカットを撮影。竜ヶ原湿原に到着したのはちょうど9時だった。雲はあるものの、湿原の道の先に鳥海山の山頂が見える。ふりだしに戻ったわけだが、やっと鳥海山をこの目で見ることが出来た。しかし雄勝から鳥海山は予想よりも近い。道が整備され、また車の数も少ないためか、雄勝から1時間ほどで竜ヶ原湿原に辿り着ける。昨夜は道の駅「東由利」まで2時間近くかかったのに

戻ってラッキーだった。今回の旅では諦めていた法体の滝にも立ち寄ることが出来たからだ。法体(ほったい)の滝は、さすがに鳥海山の観光地だけあり、人も車も多い。時刻もちょうど昼になったので、茶店で蕎麦をいただくことにした。ざるそば800円と少々高いが、目の前でそばを打っている。手打なのだ。半日ほど予定が狂ってしまったが、嬉しい誤算だった

今日の予定を再考してみようと、再度道の駅「おがち」に戻る。秋ノ宮温泉と川原毛地獄は立ち寄りたい。これから先は山の中に入ることになるので、ガソリンを満タンにしておかねば。立ち寄ったスタンドでは毎度の食事処情報もしっかりと聞き出す。僕の質問は毎度決まっている。店員の方をつかまえて「あなたが利用している、お気に入りの店を教えて欲しい」と切り出すのだ。すると十文字町にラーメンの美味しい店があるという。どうやら雄勝、湯沢周辺では十文字町のラーメンは有名らしい。細い縮れ麺にあっさりとした魚ダシのスープが特長なのだと。僕は2軒の店を教えてもらった。その後すぐに104番で店の電話番号を控え、店に電話をかけると、教えてもらった1軒は定休日のようだが、もう1軒の店はやっていた。閉店時間を確認すると7時頃がラストオーダーだという。なんとかなるだろうと、秋ノ宮温泉から川原毛地獄に向かったものの、川原毛地獄に辿り着いたのは夕方5時を過ぎていた

じっくりと見物する時間など既に無い。翌朝再訪することにして、一路十文字町を目指すことにした。しかし山道である。泥湯温泉に到着したのが5時半。ここから十文字町まで1時間半で辿り着くだろうか。しかも十文字町の地理は全く知らない。迷ったらアウトだ。途中、湯沢で店に連絡を入れ、向かっている旨を伝えておいた。既に6時は廻っている。十文字町の駅を目印に定休日ではあるが、目印の「丸竹食堂」を探す。目指すラーメン店「三角そばや」は「丸竹食堂」の路地を入ったところにあるという。目印の店を見つけ「三角そばや」に到着したのは6時40分だった

滑り込みセーフ。店内は昔ながらの典型的な食堂で、電話で対応してくれたおばちゃんは、とても素朴な方だった。壁にかかっているメニューを見ると「中華そば」550円、「チャーシューメン」650円、「中華そば 中盛」700円、「チャーシューメン 中盛」800円、「中華そば ダブル」800円と書かれている。僕は「中華そば」550円を注文した。出てきたラーメンは懐かしい三多摩のラーメンによく似ている。細麺のちぢれ麺の上にシナチク、ナルト、海苔、チャーシュー、刻みねぎ、そして麩がのっている。三多摩ラーメンには麩はのっていないが、見た目はまさに三多摩ラーメン。スープを飲んでみる。あっさりとした魚ダシの味がする。煮干やカツオ節、鶏ガラを使用しているんだろうなぁぁ。化調の味も殆ど感じない。旨い。こりゃゃ昔懐かしい三多摩ラーメンそのものだよ。もっとも三多摩ラーメンの多くは化学調味料も入っていたけど..

ところで現在、東京で流行っている魚ダシの有名店とはいえば、武蔵だろう。武蔵は今でこそ有名店になったが、僕は青山店がオープンしたての頃、当時小学館DIMEの編集をしていたNさんから、無化調のサンマダシの店として紹介され、すぐに訪ねてみたことがある。まだ行列など皆無の頃だ。一口スープを飲んだ感想は、こりゃやりすぎだろう。昆布ダシがメチャクチャ強すぎるのだ。これだけのダシをとれば化調バリバリよりも、さらにインパクトがあるのは間違いないが、繊細なスープの味わいとは無縁だ。店もオープンしたてということもあるので、数ヶ月おいて再訪してみたが、結果はほぼ同じだった

その後、武蔵は大ブレークするのだが、この頃から僕は、最近のラーメン店に疑問を持つようになった。今の若者は亜鉛不足からくる味覚障害があるのではないだろうか。二郎も三田の本店で食べていた頃は雑誌にも殆ど登場していない時代だった。むろん支店などなかった。確かに当時の二郎もインパクトはあったが、それはトンコツスープの良い方向でのインパクトであり、千駄ケ谷のホープ軒のトンコツスープに通じる、東京トンコツラーメンの範疇だと思った。しかし八王子野猿街道に二郎がオープンして、すぐに食べに出かけたのだが、僕の記憶の中の二郎本店の味とは大きく違っていた。それはインパクトだけを全面に押し出した味つけだった。しばらく本店にはごぶさたしていたので、ひょっとしたら、昨今の若者の嗜好にあわせ、味付けも大きく変わってしまったのかもしれない。しかし、どう贔屓目に見ても、繊細な味とは無縁の世界。このようなインパクトだけを今後のラーメン店が目指しているとすれば、それは経営的には相当にシンドイものになるだろうことは、すぐに予想される。良い意味での「晴れ」の味は歓迎するのだが

インパクトのある味は飽きやすい。毎日食べる常連客を獲得するのは至難の技となり、マスコミに取り上げられている期間しか顧客は望めないと思うのだ。反面、ここ「三角そばや」のラーメンは毎日食べても、食べ飽きない工夫がなされている。きっと都会の若者たちには不評かもしれないな、と、思ったが、この店のポリシーの方が経営的には正しいなとも思った。地方で店を経営するには、地元の常連さんの生活の中に入り込まねば生きてはいけない。地方だけではない。僕は都会でも同じだと思う。そんな印象を持ち、店を後にした。次にスーパー2軒に立ち寄ってみたところ、1軒目の「ふじや食品」には林泉堂の「十文字ラーメン」が売られていた。「十文字ラーメンか..東京のマスコミやラーメンサイトでも見かけたことはないなぁぁ」。しばし見ていると、そのラーメンを購入しにきたオバチャンがいた。かなりの数を購入している。僕はオバチャンに、「ずいぶんと購入されてますが、このラーメンは美味しいのですか」と尋ねた。すると、オバチャンは「東京にいる娘に送る」のだという。生まれ育った十文字を思い出してもらいたいからだそうだ。そうなのだ。これこそが店とお客の望ましい関係なのだ。愛される味は、その人々の人生の味にもなる

もう1軒立ち寄った大型スーパーでは、なんと、さきほど食べた「三角そばや」のラーメンが販売されていた。1袋350円。そしてチラシも手に入れることが出来た。チラシは「湯沢店」オープンの知らせだった。大型店だ。既に横手店もあることも分かった。これは予想外だった。僕が入店した、さきほどの「三角そばや」は、おばちゃんが経営する、いかにも町内にある小さな食堂だ。しかし、実際は大きく違っていた。大型スーパーに卸すほど、商品の企画力と、さらに大量生産する施設を持った近代的な経営をしていたのだ。僕は土産として林泉堂と三角そばやのラーメンを購入した。帰宅して食べ比べてみたが、どちらも美味しかったが、価格の差もあるが、三角そばやのラーメンは、店で食べた味をかなり近く再現できていた。東京のマスコミやラーメンフリーク達はインパクト、インパクトと叫んでいるが、普通の人達は、この三角ラーメンのように大量生産にも関わらず、食べ飽きない味を支持するのではないだろうか。今後ラーメンチェーン店が成功するとした場合、「吉野屋の牛丼」のように濃い味付を意識的に避けた、あっさり味のラーメン店が繁盛するだろう..とその時に予測したのだが、2003年、それは現実となっている。東北で誕生したラーメンチェーン「幸楽苑」は、なんと東証の一部上場を果している。「毎日食べても食べ飽きない味をコンセプトとしている」と日経ビジネスで「幸楽苑」の社長は述べていた。やはり実行している人はいたのだ

僕が十文字町に訪れた、その後、東京で最も有名なラーメンサイトの主催者さんは、この「三角そばや」や角館の「いとう」に訪れ、どちらの店もかなりの評価をされていた。この頃を境に様々なラーメンサイトで「十文字ラーメン」を見かけるようになった。今では「三角そばや」は行列店となっているようだ。最近の讃岐うどんのブームもそうだが、うどん好きの地元の人達にはメリットはない。ブームに合わせての便乗ビジネスも出てくるだろう。なんとも難しい問題だ


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