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夕暮れ間近の橋杭岩に辿り着いた。国の天然記念物であり、南紀の観光名所でもある橋杭岩は、ウィークデーにもかかわらず賑やかだった。橋杭岩まで歩いていけるほどに潮は引き、潮溜まりを照らす光りが美しい
僕の撮影スタイルはスナップ写真だ。いわゆる風景写真を追いかけているつもりは全くないし、ドキュメンタリーでもない。インプロビゼーション、つまり僕と対象とのセッションだ。どんな出会いでも音楽は必ず聞こえてくるものだ。朝焼けを待つとか、意図した光を待つということも一切しない。目の前にある「そのもの」を相手にセッションするのが楽しいのだ。頭の中でデザインしたドラマチックな写真は、どちらかというと好きでない。人生は苦労の連続だという、苦しみに満ちた顔を撮影しようとすることは簡単だ。人は、楽しい笑顔も、辛いしぐさも、どちらも必ず持ち合わせている。撮影者が意図的に辛い表情だけを抜き取り、撮影することはテクニック的には簡単なことだ。彼等がその表情を浮かべるまで待てばよい。風景写真も同様だ。10年に1度しか見せない富士山の顔は貴重かもしれないが、そういう特別な顔ばかりにしか興味の湧かないカメラマンは不幸ではないかと思う。僕は平平凡凡が好きだ。平平凡凡の日常の中にも素晴らしい発見はあるし、気持ちの良い音楽を伴に奏でることもできる。戦地に赴かなければ「命」を撮影できないわけではない。生も死も生物にとっては日常だ。しかし今日出会った生物や風景は一期一会。互の出会いを自分の中でどのように「関係」したのか、それをメモするのが僕の写真なのだと思う
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